あゆを喰う - 新橋 鮎正
taromatsumura, 2007.08.15 23:05 [ Column / Today : food meshi restaurant shinbashi tokyo ]
新橋の繁華街から南に下ったあたりは再開発地域になっていて、空き地が目立つようになっている。ここで古いお店ののれんを守るのが、鮎正。本店は島根にある旅館で創業昭和38年という、天然の鮎が食べられる老舗である。苔を食べて成長する鮎は、川の水質が要と言える。島根から直送されてくるこの時期の若鮎を堪能すべく、新橋の鮎正ののれんをくぐった。すると女将が出迎えてくれて、手狭い座敷へ通される。
まずは前菜から。トウモロコシのおもちが夏らしい風味。 程なくすると、唐揚げ、召し上がりますか? と。もちろん「はい」と答えると、はらわたの苦みがちょこっと残った絶品の唐揚げが。これはビールでのどをうるわす時の絶好のつまみになります。
お椀。焼いた鮎が冬瓜の上に載せられて運ばれてくる。おすましに焼き鮎の香りが移る程度で、鮎は素早くお椀に載せる。そうしないと、鮎のせっかくの風味が損なわれてしまうからだ。鮎にかぶりつき、その日初めての鮎の風味を堪能する。この鮎を素早く載せるためのお椀の絵柄にも季節感がある。そして香ばしさがほのかに移ったスープを冬瓜とともに口に運ぶ。
鮎を骨ごと薄く切った刺身。骨のがりがりとした食感の中に、鮎そのものの味がうっすらと広がってくる。あまりミョウガやワサビをつけすぎずに。
この時期の鮎はまだまだ小降り。そのため、頭を切り離して、実を押して、と言う骨を引っこ抜く作業などせずに、頭からそのまま食べていくことが出来る。 青々した蓼酢が目からもさわやか。
中に入っているのは、1年かけて作った、鮎のはらわたの塩漬け、にがうるか。とろとろとした、口の中にまったり残る食感の中にはらわたの苦みが塩とともに熟成されて、これがとてもお酒に合う。 口の中に残るしびれは、山椒のせいだろうか。
衣をつけた鮎のフライ。はらわたには、うるかみそ(だと思われる)が詰まっていて、とろっと断面から流れ出てきている。
にがうるかを作るときに出てくる魚醤のようなモノを揚げたなすに絡めた1品。ぷりぷりのジューシーななすにややまろやかになったがしかし濃厚なうるかの風味。うるかなすの残ったタレには、ご飯が半善用意される。これをどぼんとご飯を入れて、これをよく絡めていただく。もうちょっとご飯を入れたくなっちゃうくらい。
焼いてあるあゆがダシにしたしてある。ずいきが枕になっていて、ダシには大根おろしと蓼が飾られている。 初めに出てきたお椀に比べると、大根おろしのせいだろうか、ほのかに甘く感じられる。またお椀では焼きたての香ばしさを楽しんだが、今度は出しがしみこんだまろやかな味わいを楽しむ。同じ食材、同じダシを使いながらも、強調する演出の違いでここまで変わるモノだろうか。そして上品な鮎の酢の物は、やまいも、きゅうり、わかめとともに。
最後はなんといっても鮎ご飯。ダシで炊かれたご飯に細かく混ざっている鮎の味がなんともよくしみていて上手い。そして大きな青梅を中心に鏤められた涼しげな氷がデザート。鮎ずくしだけれども全く飽きのこないメニューと、鮎を隅々まで楽しむことが出来る演出は、さすがのひとことである。
川魚と言えば臭みがつきものだと思っていたが、鮎正の鮎にはそれがない。その代わり、鮎そのものの香りが広がる料理の数々には、川魚の楽しみ方を「きちんと」魅せられた気がする。
2週間ほど前からの予約が必要なこのお店は、冒頭で書いたとおり、再開発地域のど真ん中に位置している。食べ終わって送り出してくれる凛とした女将さんの話によると、このお店にも立ち退きが言い渡されているそうだ。しかしながら夏のシーズンはてんてこ舞いの忙しさで、店を閉めることはもちろん出来ないし、他の場所を探したりすることもかなわない。
この冬に新橋のどこかを探して、もし見つかればお店を建てながら営業をして、次のシーズンオフに移転するという段取りになるとのことだが、まだ良い場所が見つかっていないという。破れた端を補修してなお掛かり続けるのれんを見ると、「のれんを守ること」の大切さを伝えてきているような気がする。昭和の香りがする古くて狭いお店で、この薫り高き鮎を楽しむことが出来るのも、そろそろ終わりかも知れない。
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